「すべきでないこと」は、「すべきこと」よりはるかに影響力がある。
「幸福」を手に入れるのではなく「不幸」を避ける。
逆説的幸福論を説くスイスのベストセラー作家、ロルフ・ドベリ(Rolf Dobelli)氏の作品をまた紹介させてください。
以前にご紹介した『News Diet 情報があふれる世界でよりよく生きる方法』(サンマーク出版)よりも以前の作品ですが、『Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法 Kindle版』(サンマーク出版)という52の典型的な思考の錯誤を分かりやすい具体例で説明し、さらに後半にはこの「52の錯誤」から抜け出すためのワークブックがついています。
とはいえ、私が読んだのはドイツ語版『Die Kunst des klaren Denkens: 52 Denkfehler, die Sie besser anderen überlassen(明快な思考の方法:52の思考の錯誤は他に人に任せよう)』(Piper Verlag)で、しかも改訂版なので、ワークブックの部分はもしかすると日本語版の方にはないかもしれません。
この本は元はドイツ紙 Frankfurter Allgemeine とスイス紙 Sonntagszeitung に掲載されていたコラムをまとめて加筆修正したものです。つまり、ドイツ語が原文ですので、ドイツ語学習中の方に日本語版と合わせて読み比べてみることをお勧めします。
この本の趣旨は、石器時代から変わってない人間の脳が複雑化した社会の中で陥りやすい典型的な思考の錯誤、いわゆるバイアスを明らかにし、どうやってこのようなバイアスと付き合っていくかを説くことです。完全に避けることが目的ではありません。そもそもそれは不可能なので無駄な努力はしない方がいいということですね!
けれども、決断の影響が重大である場合、たとえば大きな予算・出費が絡んでいたり、生命の危険がある場合などは、真剣に何かのバイアスに囚われていないか考えるべきだと著者は言います。ここぞという場面で錯誤を排除する努力は重要ですが、日常のありとあらゆる場面から思考の錯誤を失くすような努力は不要な完璧主義ということです。
例えば「ソーシャルプルーフ」というバイアスがあります。これは「たくさんの人が正しいと思っていることは正しい」という思い込みです。もちろん確率的には正しい可能性が高いです。
旅先で大きな催し物の会場が分からないとき、たくさんの人が1つの方向に向かっているのを見たら、その人の流れについていけば正しい会場に着く確率は高いですよね?
道端でじっと上を見つめている集団がいるのを見たら、深く考えずに上を見ちゃいませんか?
周りにいる何人かの人がいきなり叫んで走り出したら、とりあえず一緒に走り出したりしませんか?
いわゆる群集心理という現象ですが、こういう行動パターンのおかげで危険を回避してきた石器時代の人間の子孫が私たちなので、このバイアスは本能に基づいている根深いものと言えます。これのせいで集団パニックや株式市場でのバブルも発生しますし、トイレットペーパーなどの特定商品の買い占めも起こります。でたらめな噂も一度広まって、それを信じる人が増えると、ただ広まっているというだけで「ソーシャルプルーフ」バイアスが働き、どんどん信者が増えるわけです。
口コミも「ソーシャルプルーフ」に当たりますね。いい口コミがたくさんある商品やレストランの食事などがあなたにとってもいいとは限らないですよね?
厳密に言えばたくさんの人がいいと思ってるというのは何も「証明」してないので、それなのにだから正しいと思うことは非論理的なのです。
これはただの1例です。こういう間違った思い込み・バイアスが52個もあるというのですからびっくりですよね。
すごく勉強になります。この52個の思い込みの中から自分が一番陥りやすいものを2・3ピックアップして集中的に思考のくせを治すのに使えるのが後半のワークブックです。
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