Marc-Uwe Kling の『QualityLand クォリティランド』の続編である本書『QualityLand 2.0 Kikis Geheimnis クォリティランド2.0 キキの秘密』は、基本的には第1巻で謎めいた存在であった Kiki Unbekannt の正体に迫るSF風刺コメディです。ナンセンス・ドタバタの色合いが濃い小説ですが、ところどころに辛口の風刺パンチのきいた小説です。
メインストーリーに並行して、前回は勝手に送り付けられたピンクのイルカ型バイブレーターの返品で困っていた Peter Arbeitsloser が法改正によってようやく彼の本来の職業である機械治療師として働けるようになり、様々な機械が抱える問題に耳を傾けて治療するシーンの描写がナンセンスで爆笑ものです。
しかし、彼の平和は長く続かず、キキの命を狙う Puppenspieler(人形遣い)に診療所を破壊されたり、バイブレーター返品騒ぎで敵対していた TheShop のオーナー Henryk Ingenieur になぜか気に入られて拉致られたり、何かとトラブルに巻き込まれます。
もう一つのサイドストーリーは、大統領に就任したアンドロイド「John of Us」を爆破した Martyn Vorstand が殺人罪ではなく「器物損壊罪」に罪を軽減されて出所した後に、何をどうしてもどんどんレベルダウンしていくラインです。Martyn 自身、決して賢い振る舞いをしないのは確かなのですが、そこまで大げさに転げ落ちていくのには、何者かの悪意が働いているのではないかと勘繰りたくなるものがあります。そこで「John of Us」の意識は実はインターネットにアップロードされていて、全機械を制御していると信じる一団がいることから、Martyn も徐々に「John of Us」の復讐なのではないかと疑うようになります。
さらに第三次世界大戦が勃発し、数時間で終息するという大事件が起こり、誰もその原因が分からないという事態に「John of Us」の大統領選を取りまとめていた政治戦略コンサルタントの Aisha Ärztin が頭を悩ませるというサイドストーリーも絡んできます。明かされた原因はシャレになりません。自主学習するAI制御の防衛システムは恐るべし、という感じです。
これらのメインのストーリーラインの合間にクォリティランドの文化が手に取るように分かるような広告やSNSの類への投稿とコメントなどが挟まれていて、だいぶ話が散らかっている印象は否めませんが、それぞれにかなり笑えます。
ナンセンスでドタバタしているので万人受けするとは思えませんが、そういうノリが好きな方にはお勧めです。未邦訳ですが、1巻が邦訳済みなのでいずれ 2.0 も邦訳されるのではないでしょうか。
ドイツ語原文で読むには、少なくともB2のドイツ語力がないと厳しいかと思います。
風刺の対象やパロディの元ネタなどを知らないと理解できないシャレやジョークが多く、若者言葉やスラングも多用されているため、ドイツ語力だけではなく、ドイツ事情にも通じていないと本当のおかしみが分からないかもしれません。
でも、現代ドイツ文化を斜め後ろから知ることができるので、全てのジョークをフルに味わえなくても十分に興味深い小説だと思ます。