Mikako Hayashi-Husel

2021年8月1日8 分

Redewendungen der Woche KW31/2021

先週(2021年第31週)にFBのページTwitterまたはNoteでご紹介した「Redewendung des Tages 今日のドイツ語慣用句」をまとめてご紹介します。

1. [in etwas] zum Ausdruck kommen

意味:
 
(~の中に)現れる、明らかになる。
 
字義通りには「(~の中に)表現に来る」

例文:
 
In ihren Worten kam ihre große Dankbarkeit zum Ausdruck.(訳例:彼女の言葉の中には彼女の大きな感謝の意が現れていた)

Wichtig sind uns die Leitlinien, die in unserem Beschluss zum Ausdruck kommen.(訳例:我々にとって重要なのは、この決議の中で明らかになっている指針だ)

解説:
 
この慣用句も、前置詞+(動詞的な意味を持つ)名詞+機能動詞という典型的な Funktionsverbgefüge 機能動詞構造です。
 
sich [in etwas] ausdrücken という代わりにわざわざ動詞的要素を名詞化して、kommen という一般的な意味しか持たない機能動詞と組み合わせる回りくどさが実にドイツ語(のインテリ)らしい表現です。

2. Das geht aus wie das Hornberger Schießen

意味:
 
拍子抜けの結果になる、結果を得られないまま終わる、竜頭蛇尾。

字義通りには「ホルンベルク市の(領主歓迎の祝砲の)発砲のように終わる」

例文:
 
Der großangelegte Versuch, die Olympischen Spiele zu modernisieren, ging aus wie das Hornberger Schießen.(訳例:オリンピックを現代的に改革する大規模な試みは拍子抜けの結果に終わった)

Erst laden sie vollmundig die gesamte Elite ein, versprechen einen glamourösen Abend und am Ende geht es aus, wie das Hornberger Schießen.(訳例:まず大口をたたいてエリート全員を招待し、魅力的な夕べとなることを約束するものの、結局、竜頭蛇尾で終わる)

解説:
 
この慣用句は、故事成語に分類されるもので、黒い森の小さな街、ホルンベルクでの祝砲にまつわる出来事に由来します。
 
ただ、実際にいつ何がどう起こったのかについては諸説があります。
 
Duden 11 Redewendungen に「最も楽しい説」として掲載されているのは、数百年前に領主の訪問を知らされたホルンベルク市民が祝砲の演習をし過ぎて火薬を切らせてしまい、本番に祝砲が撃てなかったので、代わりに祝砲の音をまねてみんなで叫んで領主を迎えた、というエピソードです。

別の説では、添付画像にあるように1564年にあったとされる出来事で、Herzog Christoph von Württemberg クリストフ・フォン・ヴュルッテンベルク公爵がホルンベルクを視察に来ると知らせを受けたホルンベルク市民が指示通りに歓迎の祝砲の準備をして待っていたところ、遠くから近づいてくる砂ぼこりが見えたために歓声をあげて祝砲を撃ったら、その砂ぼこりの正体は郵便馬車でした。同じことをしばらくして通った小売商人の小隊、さらに牛の群れにもやってしまい、ついに火薬がなくなったところへ本物の公爵の一行が到着した、というエピソードです。
 
これには商隊と牛の群れではなく、公爵の家来たちが先行隊としてやってきたというバージョンもあります。
 
本番に祝砲のものまねをしたところはDudenの話と同じです。

もう1つの説は1519年にあったとされる出来事で、ホルンベルクが隣町のVillingen フィリンゲンから攻撃を受けた際に、防衛のための大砲を撃ったものの早くも玉切れとなってしまったため、フィリンゲンからの侵略者たちは大砲が止むのを待ってから悠々とホルンベルクを占領した、というエピソードです。

小学館の独和大辞典にはこの故事成語の意味が「骨折り損のくたびれもうけに終る、苦労が水の泡になる」と記載されているのですが、このニュアンスに相当するような例文は見つけられませんでした。結末が望ましくないという点では同じですが、焦点は最初と最後の落差にあり、その間になされたかもしれない骨折りや苦労は問題とされません。

3. nicht zum Aushalten sein

意味:
 
耐えがたい、我慢がならない

例文:
 
Dieser Lärm ist ja nicht zum Aushalten!(訳例:この騒音、マジで耐えられない!)

Es ist nicht zum Aushalten, wie viele Fake-News kursieren und dass so viele Leute auch noch daran glauben!(訳例:どれだけ多くのフェイクニュースが出回っていて、しかもそれを信じる人がこんなに多いのは我慢がならない)

解説:
 
zum + 不定詞の名詞化 + sein (~するためにある、~するのに適している)という構造は非常に頻繁に使われるどちらかというと口語的な表現です。本来であれば zu + 不定詞 + sein であるべきところです(das ist nicht auszuhalten)。
 
それでも「nicht zum Aushalten」はまだちょっとお上品な言い回しです。
 
「いやだ」と思う感情をもう少し強く表現する口語的な言い回しは、「das ist zum Davonlaufen / Weglaufen(逃げ出したいくらいいや) 」や「das ist zum Weinen / Heulen(泣きたいくらいいや)」あたりでしょうか。
 
「das ist zum Kotzen(反吐が出る、吐くほどいや)」という【derb 野卑】に分類される表現もあります。
 
まあ、確かに泣いたり逃げたりするより、反吐を吐く方が下品な感じですよね。


 
4. mit jemandem ist kein Auskommen

意味:
 
~とはうまくやってゆけない、~には我慢がならない

例文:
 
Der neue Chef ist so kleinlich und rechthaberisch, es ist kein Auskommen mit ihm.(訳例:新しい上司はもう細かくて、いつも自分が正しいと思っててさ、付き合いきれないよ)

解説:
 
das Auskommen という名詞は通常「暮らし・生計」を意味するのですが、この口語的慣用句では「~とではお金を稼げない」という意味ではなく、「人との折り合い」を意味します。
 
「mit jemandem auskommen 人と折り合う、うまくやる」という熟語に対応しています。
 
うまくやっていけるのであれば「mit jemandem gut auskommen」と言いますが、「gutes Auskommen」は高収入であることを意味し、人と折り合う意味でつかわれることはありません。
 
つまり、Auskommen が「人との折り合い」を意味するのは否定詞 kein を伴ったこの慣用句だけなんです。このため、応用は効かないのですが、「お金を稼げない」というような誤解をしないようにご紹介しました。

5. man lernt nie aus

意味:
 
人生修行に終わりはない。どんなものも学び切ることはない。

例文:
 
Von ihr hätte ich so eine Gemeinheit niemals erwartet - na ja, man lernt eben nie aus.(訳例:まさか彼女がこんなひどいことするなんて思ってもみなかった。まあ、人生、何があるか分からないよね)

Man lernt nie aus: Aus diesem Satz sollte man lernen. - Gerhard Uhlenbruck(訳例:人生修行に終わりはない。この言葉から人は学ぶべきだ。ゲルハルト・ウーレンブルック)

解説:
 
auslernen とは本来「終わりまで学ぶ」、つまり見習いとしての修業期間の終了を意味しています。
 
それが決して終わらない、つまり「人生が終わるまで新しい経験・体験をして学ぶことがある」というのがこのことわざの趣旨です。
 
このことわざは必ずしも人生経験だけに使われるものではなく、たとえば私のようにドイツ在住30年以上でドイツ語と長いお付き合いがあるにもかかわらず、まだまだ知らないことがたくさんあるなあ、と思った時など「Ich habe mich schon so lange mit der deutschen Sprache beschäftigt, aber man lernt nie aus!」のように呟くこともできます。
 
どんな分野でも「学び切る」ことは基本的にないので、自分の専門分野で新しい気づきがあった時などにもよく出てくる言葉ですね。
 
現状に満足せず、まだまだ伸びしろがあることを意識する知的謙虚さを持つことは大切ですね。

6. jemandem etwas/viel/nichts ausmachen

意味:
 
相違〈支障〉がある

例文:
 
Würde es Ihnen etwas ausmachen, wenn ich Sie umarme?(訳例:あなたを抱きしめてもよろしい(支障はない)でしょうか)

Der Golden Retriever ist ein intelligenter, freudig arbeitender Hund, dem auch extreme, nasskalte Witterungsbedingungen nichts ausmachen.(訳例:ゴールデンリトリバーは賢く働き者の犬で、厳しく雨がちで寒い天候条件もものともしない)

Es sind Kleinigkeiten, die am Ende viel ausmachen.(訳例:最終的に違いが出るのは細かいこと(ディテール)だ)

解説:
 
ausmachen は明かりなどを「消す」意味や、何かの取り決めをする意味もあり、その意味の広がりが少々とらえどころがない動詞ですが、「etwas/viel/nichts いくらか/多く/何もない」というIndefinitpronomen 不定代名詞と被害や恩恵などを受けることを表す Dativ 与格の人称代名詞とともに使われるこの慣用句は、元の意味「消す」からは想像もつかない意味になる上に、かなりの使用頻度を誇る重要語彙と言えます。

会話では最初の例文の「Würde es Ihnen (dir) etwas ausmachen, wenn ...?」は相手にお伺いを立てるときの定型文として覚えておくととても便利です。

英語では make (a) difference と bother などで区別しますが、ドイツ語では ausmachen 1つで表現できるのが興味深いですね。
 
確かに「支障」も正常とは異なる「相違」の一種ですから、なるほどと思わなくもないのですが。
 
nichts ausmachen「何の違いもない」であれば、それはすなわち、「何の意味もない」「何も気にならない」「何の支障・問題もない」ということになりますよね。
 
理解するのに少しひねりが必要ですが、よく考えてみるとちゃんと論理的です。

7. Ausnahmen bestätigen die Regel

意味:
 
例外があるのは規則のある証拠。
 
字義通りには「例外が規則(の正しさ)を証明する」

例文:
 
Man findet fast überall ein offenes Ohr und für jedes Problem eine Lösung, wenn man an die richtigen Anlaufstellen gerät. Ausnahmen bestätigen die Regel.(訳例:正しい窓口に行けばどこでも相談に乗ってもらえ、どの問題にも解決策を見つける。例外があるのは規則のある証拠だ)

Aus der Erwähnung eines „verkaufsoffenen Sonntags“ kann darauf geschlossen werden, dass in der Regel an Sonntagen kein Verkauf stattfindet. Ausnahmen bestätigen die Regel.(訳例:「(例外的に)店が開いている日曜日」と言及されていることから、日曜日は通常営業してないという結論が導き出せる。例外があるのは規則のある証拠だ)

解説:
 
この口語的ことわざは、元を辿ると、Lucius Cornelius Balbus Maiors ルキウス・コルネリウス・バルブス(紀元前40年の補充執政官)の弁護で Cicero キケロが使った論拠「exceptio probat regulam in casibus non exceptis(例外は、例外となっていないケースにおける規則を証明する)に行きつきます。ドイツ語のことわざになったのはこのラテン語の文句の最初の3語「exceptio probat regulam」です。

意外と由緒正しいことわざと言えますが、短縮してしまっては本来の論理性が損なわれていると見る向きもあります。

日常の中では、自分が正しいと思っている規則や常識とは矛盾する事例に遭遇した時によくこのことわざが引用されます。
 
Bestätigungsfehler 確証バイアスと呼ばれる認知バイアスの一種とも言えますね。

画像のテキスト:もし例外が規則を証明するなら、規則は例外を持たなければならない

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